特集 裁判員制度

~多くの問題を抱えたまま 制度開始が近づいています~
(2009年第28号ニュースより)

1.本来は延期すべきです

 今年5月21日から裁判員制度が始まります。

 この制度には、えん罪を生み出しかねない重大な問題があります(詳細は2007年度事務所ニュースをご覧下さい。差し上げます)。そのため、その問題が解決するまでは、少なくとも開始を延期するべきであり、訴え続けなければならないと考えています。

 それでも、皆さんの中には、裁判員候補者に選ばれた旨の通知を受けとった人や、家族や友人が受け取ったという人もいるでしょう。そのような人にとってみれば、どのような手続で裁判員に選ばれるのか、辞退することはできないのかなどの実際の疑問や不安を抱いているのではないでしょうか。

 そこで、まずその裁判員の選任手続について説明します。

2.裁判員選任手続

裁判員選任手続のフローチャート

①裁判員候補者名簿の作成・通知

 毎年12月ころ、有権者の中から、翌年1年間の裁判員候補者となる人をくじで選び、名簿を作成します。

 この名簿が作成されると、その候補者のもとに、その旨の通知と調査票が送られてきます。この時点では、個別事件の候補者となったわけではなく裁判所に行く必要はありません。

 この調査票は、その1年を通じて裁判員を辞退したい事情などの選任に関する事情を聞かれるとされています。

 しかし、その辞退事由は法律で決められています。

 たとえば、時期にかかわらず、1年間通じてあてはまる辞退事由としては、(1)70歳以上、学生又は生徒、過去5年以内に検察審査員等の経験者、(2)重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であることなどです。

 裁判所は、くじで将来個別の事件の候補者を選んだ場合、この調査票を検討して辞退が認められると考えるときは、呼出をしないとしています。

②個別事件の裁判員候補者の選任

 事件毎に、①の名簿の中からくじでその事件の裁判員候補者を選びます。

 そして、裁判所に行く日(裁判員選任手続期日)の約6週間前に、その候補者に呼出状と質問票が送られてきます。

 この時点では裁判の日程が決まっているため、質問票はその日程に基づく辞退事由について聞かれるとされています。

 この時点での辞退事由としては、先ほどの重い疾病又は傷害の存在に加えて、(1)自分が介護、養育しなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族等がいる、(2)重要な用務であって自らがこれを処理しなければ事業に著しい損害が生じるおそれがある、(3)結婚式など社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができない、(4)妊娠中又は出産の日から8週間以内である、(5)配偶者等の通院、入院、退院に付き添う必要がある、などです。

 裁判所は、この辞退事由があると判断した場合、その呼出を取り消すとしています。

③裁判員選任手続期日

 裁判員候補者は、裁判員選任手続期日に裁判所に行きます。

 裁判所の職員から当該事件の概要が説明され、候補者は当日用質問票(事件の関係者でないか等)を記入することになります。

 次に、候補者は1人ずつ、裁判長から小部屋にて質問を受けることになります。その小部屋には、裁判官3名と書記官、検察官と弁護人(場合により被告人)が同席にします。

 辞退事由の詳細や、不公平な裁判をするおそれがないかを確認する質問(たとえば、マスコミ報道とは関係なく判断できますか等)がされると考えられます。

 通常の事件では、午前中にこの選任手続を経てくじにより6人の裁判員が選任され、午後から事件の審理を開始されます。

3.知らなければならない基本原則

(1)ある裁判員裁判の模擬裁判での出来事です。全ての審理が終わった後に行われる裁判官と裁判員だけの評議において、裁判長が最初にこのようなことを言ったとのことです。「検察官のストーリーと弁護人のストーリーのどちらが説得的でしたか」と。

 一般の人からみれば、むしろ「えっ? そういうものじゃないの」と思われるかもしれませんが、この裁判長の発言は、刑事裁判の基本原則を無視する発言です。

 その基本原則を「無罪の推定」といいます。これは「判決で有罪が確定するまで、被告人は無罪と推定され、被告人の有罪が『合理的な疑い(合理的な疑問)を残さない程度に証明』されない限り、被告人は無罪とされる」との原則です。

 もう少し説明すると、「おそらく犯人だろう」とか「たぶんやったのだろう」という程度では有罪にはできません。皆さんの常識に照らして、証拠から少しでも疑問が残っていたら、有罪にはできないのです。

 もっともその合理的な疑問は証拠に基づく必要があります(証拠裁判主義)。たとえば、証拠上の被害者の傷が、検察官の主張する犯行態様では不可能ではないけれど、不自然で難しいなどです。この場合に「難しいけれど、不可能ではない」として有罪にすることには問題があるのです。

 そして、この「合理的な疑問を残さない」程度に有罪を証明する責任は100%検察官にあります。被告人は自分が無実であることを証明する必要はないのです。つまり、その検察官の証明が不十分であれば、被告人は何もしなくても無罪となるのです。

(2)以上の「無罪の推定」の原則を踏まえて、先ほどの裁判長の言葉を考えてみましょう。

 この裁判長の発言は、いいかえれば、「検察官のストーリーが説得的であれば有罪とし、弁護人のストーリーが説得的であれば無罪とする」ものです。

 この発言のもとでは、裁判員の多くは、仮に検察官のストーリーに「合理的な疑問」が残っていたとしても、弁護人のストーリーよりも説得的であれば有罪として良いと勘違いしてしまいます。

 また、同じく裁判員の多くは、弁護人が、被告人の無実を説得的に証明できなければ有罪にしても良いと勘違いしてしまいます。

(3)この「無罪の推定」の原則は言葉としては知っていても、その内容まで理解している一般の人は少ないと思います。つまり、裁判員のほとんどは内容までは知らないと思います。

 そのため、裁判官による説明(説示)が重要になりますが、「無罪の推定」をないがしろにしている裁判官が決して少なくないため、正確な説明がされる保障はありません。

4.最後に

 今回は「無罪の推定」のみを取り上げましたが、裁判員はルールに従って判断しなければなりません。

 皆さんが裁判員に選ばれたときには、少なくともこの「無罪の推定」を意識して下さい。

▲コラム:特集 裁判員制度ページ/TOPへ

~このままではえん罪を生む制度になる~
(2008年第27号ニュースより)

1.制度の概要

 裁判員制度は、国民(裁判員)が殺人等の重大な刑事事件の審理に参加して、裁判官とともに有罪無罪と量刑を決める制度です。3名の裁判官に対し、裁判員は6名となっています。
 しかし、この制度は、このままでは今以上にえん罪を生む温床となりかねないのです。

2.公判前整理手続の存在

 公判前整理手続は、特に裁判員裁判において、争点中心の充実した審理を集中的に行うため、予め争点を整理し、公判で取調べる証拠を決定する第一回公判期日前に行う手続です。この手続後は、原則として新たな証人や証拠の取調べ請求をすることはできません。
この手続には裁判員は参加しませんが、裁判員の判断に供される資料は原則としてこの手続で全て決められてしまいます。

 もちろん、この手続が充実し、適正なものであれば良いのですが、現実は違います。
 例えば、検察官はほとんど全ての証拠を独占し、そのうち有罪方向の証拠のみ取調べ請求をします。そのため、検察官が被告人に有利な証拠も含めて全ての証拠を被告人・弁護人に開示しなければ、法廷にはその証拠は出てきません。しかし、現在そのような全面的開示の制度はありません。
 また、特に重大事件や複雑な事件では被告人・弁護人に十分な準備期間が必要です。しかし、この手続は法律上早期の終結に努めなければならないとされているのです。陪審制度のあるアメリカでは、公判準備に1年間も時間を費やすこともあります。

 さらに、被告人の自白の任意性の判断に裁判員が参加できない弊害が大きいのですが、それは次項で説明します。

3.取調べ過程の可視化の不存在

 しばしば被告人の虚偽の自白がえん罪の決定的証拠とされています。そのため、刑事訴訟法も「任意にされたものでない疑いがある」場合には、その自白調書は証拠とはできないとしています。
 しかし、実際には、被告人がいくら自白調書は強制されたもので、任意に話したものではないと争っても、裁判官は聞く耳をもたず、自白調書をほとんどそのまま採用されています。今後この採用は、裁判員の参加しない公判前整理手続で行われます。
 そのため、たとえ被告人が自白は強制されたものだと言っても、裁判員は裁判官から「この自白調書は任意にされたものです」と説明を受けることになるため、「自白は嘘で、信用できない」と考える裁判員はまずいなくなるでしょう。

 この構造を改め、自白調書の任意性の争いをなくし、適正な事実認定を確保する最良の方策は、取調べ過程の可視化(録音・録画)がです。
 そして、この可視化は、被疑者が自白をしている部分だけでは全く意味がなく、取調べの全過程の可視化が必要なのです。自白に至った経緯を検証できることが可視化の意義であり、捜査機関が任意らしく虚偽自白を整えることはいくらでも可能だからです。
 なお、録音・録画をすると、被疑者が自由に話さなくなるとの心配をよく聞きますが、可視化先進国のアメリカではそのような報告はほとんどありません。仮にそのような被疑者がいても、「録音(録画)を止めてくれたら話します」と言ったところでテープを止めればいいのです。

4.裁判官中心の制度

 前述のとおり、全面的な証拠の開示制度がなく、被告人に十分な準備期間を与えず、取調べ全過程の可視化のない状況では、公判前整理手続を経た裁判官はほとんどの場合有罪の心証を形成しています。
 そして、そもそも裁判官は、事実認定や量刑についての知識・経験を裁判員より圧倒的に多く持っています。
 このような裁判官が主催する評議において、裁判員は自由でいられるでしょうか。おそらく裁判員は萎縮するか、裁判官に追随して有罪の意見を述べるのではないでしょうか。

5.「説示」の重要性

 刑事訴訟においては、「事実認定は証拠によること」、「疑わしきは被告人の利益に」の原則等重要なルールがあり、一応裁判官から裁判員に対して説明されることになっています。
 しかし、このルールは一般の国民には馴染みが薄い。例えば、「疑わしきは被告人の利益に」と言っても、その「疑い」とはどの程度のものでしょうか。
 そのため、よほど適切で分かりやすいものでなければ理解されず、その説明の巧拙で裁判員の評議に影響を与えかねません。
 そこで、説示は個々の裁判官の裁量にまかせず、統一的な方法を考える必要があります。

6.まとめ

 このように、公判整理手続下の裁判員制度は、拙速裁判となり、今以上にえん罪を生み出す土壌になるでしょう。
 「裁判員になりました」監修・発行 日本弁護士連合会  なお、写真のブックレットは、日本弁護士連合会が発行している、税別定価95円という驚きの安さの漫画本です。しかし、この漫画本には、これまで話したような根本的な問題点についての指摘は何もありません。日弁連でさえ、こうなのです。
 裁判員制度にはまだまだ数多くの問題があります。、今回指摘した問題以外にも、裁判員辞退の範囲の不明確さ、罰則のもとでの重い守秘義務などまだまだ数多くの問題があります。皆さん一人一人がよく見、考えて下さい。

▲コラム:特集 裁判員制度ページ/TOPへ

〒114-0022
東京都北区王子本町1丁目18番1号
北法ビル4階(北区役所真向い)
TEL:03-3907-2105
FAX:03-3907-2183